みなさんこんにちは、「ITユニプラ」編集部です。
前回はCPUのスペックシートについて説明しました。
今回は、CPUのスペックシートからは分からないメーカーのチューニングの1つとして、「消費電力」とそれに伴い発生する熱を放熱するための「熱設計」について説明していきます。
皆さんの参考になれば嬉しいです。
前回の記事はこちら熱設計において、設計の枠を規定している数値をTDP(Thermal Design Power : 熱設計消費電力)と言います。
ややこしいのですが、TDPはCPUのピーク時の消費電力ではありません。
【TDP】
「CPUがこの電力(TDP)を消費しているときに発生する熱を排熱できるように設計しなさい」という指標
このTDPですが、2020年頃発売のCPUから
「オペレーティングレンジ(Operating Range)」という表記に改められました。
熱設計消費電力(TDP)という定格値がなくなり、一定の範囲内でメーカーが自由に設定できるようになったのです。
前回記事で載せた「Core i7-1165G7」のOperating Rangeは12W~28Wとなっています。
このOperating Rangeがモバイル向けCPU選びの重要なポイントとなるのです。
そしてもう一つ考えなくてはならない要素があります。
それは、Intelの「Intel Turbo Boost Technology(以下Turbo Boost)」です。この機能があるためにさらにややこしくなります。
【Intel Turbo Boost Technology】
CPUの消費電力が増えてもすぐにはCPUの発する熱が増えないというタイムラグを活用するもので、その間、CPUはスペック上のベースクロック周波数よりも高いクロック周波数で動かすことができるようになります。
要するに、CPUの温度に余裕があるときはクロックを上げて、温度が高くなると徐々にクロックを下げるという機能です。
Intelでは一時的に出せる最高クロックで消費する電力を「PL2」、
Turbo Boostで安定して動作するようになるクロック周波数で消費する電力を「PL1」と呼んでいます。
※PLはPower Limitの略
このPL2、PL1の消費電力はPCメーカーに設計が任されております。
PL2は「Core i7-1165G7」の場合、28Wの1.25倍~2倍程度で設定され、
PL1は12~28Wの間で設定されます。
2020年以降TDPが廃止になったことで、「同じCPUなら、同じパフォーマンスだろう」という前提に立った機種選びがより困難になってしまったのです。
Windowsの場合CPUの消費電力は電源モードによっても変化します。
Windows10の場合、タスクバーの右の方にバッテリーマークの電源オプションがあると思います。
電源に接続していれば、高パフォーマンスか、最も高いパフォーマンスになっていると思います。
最も高いパフォーマンスにすると、文字通りこのノートPCの最高のパフォーマンスが出せる設定になります。
また、逆に最高のパフォーマンスになっていてファンがうるさかったり、PCが熱かったりする場合は、高パフォーマンスかより良いバッテリーに下げる事で解消される場合もあります。
メーカーによっては独自の電源管理ツールがあり、さらに細かくチューニングしている場合もあります。
こういったツールもパフォーマンス管理に注力しているかの指標になったりします。
重要なのが設定されたPL1が高くパフォーマンスが良いと思われる場合でも注意が必要です。
制限が28Wなのと、発生する熱を排熱できる事は別だからです。
もちろんメーカーは28Wで動作してもも排熱できる設計にしていると思うのですが、使用状況によって変わってしまう事もあると思います。(車の燃費に似てますね)
炎天下でスマホの動作が遅くなるのと同様に、CPUも温度が上がるとサーマルスロットリングが発生して、自動的に動作クロックが下がってしまう事もあります。
場合によっては「Core i7」よりも「Core i5」の方が動作が良くなる逆転現象も発生する可能性があります。
下位CPUの方がベンチマークスコアが高かったというレビューなどもいくつかありました。
「Core i7」の中でも高性能なCPUを選択する場合は特に排熱の設計も考慮することが重要です。
では、実際にどういう点に注目して選べば良いのでしょうか。
パフォーマンスが良いPC選びのポイントをまとめます。
CPUのアーキテクチャーは数年おきにメジャーアップデートがあります。
ここ数年では、第8世代でモバイル向けCPUでも4コア8スレッドになりました。
第11世代では、TDPが廃止され、メーカーが熱設計を枠内で選べるようになりました。
第12世代では、スマートフォンのSOCのように高性能コアと高効率コアのハイブリット構成になると思われます。
ノートPCの筐体も数年おきにアップデートするメーカーが多いのですが、
CPUのアーキテクチャーが変わり、それが発熱に影響するなら、排熱を見直す必要があると思います。
CPUが大きくアップデートされたタイミングで新筐体になっていると、しっかり対策が取られている可能性が高いです。
ただし、当たりまえですが、CPU以外にも様々な理由で筐体が見直されます。
近年でいうと、コロナ禍でリモートワークが増えた事が挙げられます。
今までノートPCでは、マイクやスピーカ、WEBカメラはおまけ程度のメーカーが多かったのですが、それらを強化するために別のことを犠牲にするケースもあったりしますので、ただ筐体が新しくなったからOKという分けではありません。
製品ページの特徴の中に、ファンとヒートパイプについて説明があるかどうかです。
ヒートパイプはCPUで発生した熱をファンまで移動させる部分です。
製品紹介では、デザインやインターフェースなど目に見える特徴などが多いですが、排熱に触れているのはパフォーマンスも売りにしている可能性が高いです。
ファンは2つついているモデルがDELLとVAIOから発売されています。
ゲーミングPCでは2つが標準ですが、一般的なPCで2つはグッドポイントです。
注意点として、省スペース化の為に小型ファンを2つ搭載するケースもあったりします。
ファンは1つでも、ブレードの枚数や形状にこだわっていたりするメーカーもあります。
パナソニックのLet's noteもそのうちの1つです。Let's noteといえば、ロングバッテリーで1日中外で使える。という印象で、パフォーマンスに縁が無いと思い込んでいましたが、近年は特に省電力化はもちろん、パフォーマンスにも力を入れており、特設ページも用意されていました。
また、ヒートパイプについては細かい話は省略しますが、一般的に1本より2本の方が良いです。
もちろん運ばれてきた熱を放熱できるのが前提です。
バッテリーの持続時間を長くするために、メーカーは様々な努力や工夫をしています。
今回の記事はCPUを中心に考えていますが、パフォーマンスを上げればバッテリーの消費が多くなり、バッテリー駆動で使える時間は短くなります。
逆に、バッテリー駆動時間が長ければCPUの消費電力を絞っている可能性があります。モバイル時にもパフォーマンスを求める場合には気にしてみてください。
基準と言われると難しいのですが、2機種まで絞って悩んでいる場合などに比較頂く程度でいいと思います。
余談ですが、モバイル運用時はCPUの消費電力よりディスプレイの消費電力の方が高いことが多いので、画面を暗くするとバッテリーが長持ちします。
そもそもの話になってしまいますが、ノートPCに何を求めるか。
目的に合った機種を選ぶべきという事です。
薄型ノートPCでは、バッテリー容量や排熱に限界があります。
持ち運ぶ事が少なく自席や会議室への移動程度なら、薄型ではなく、少し分厚い機種の方が排熱にも余裕が生まれ、パフォーマンスを出す事ができます。
とはいえ、近年はIntel Evoという規格が一般的になっており、メーカーのフラッグシップモデルは薄型な傾向があります。Intel Evoについてはコラムをご覧ください。
記事を書きながら、ここまで考えて選ぶ人は本当にいるのだろうか。
という思いが強まりました。
メーカーのサイトを見ても良いことしか書いていません。
機種の機能ページや新製品発表会の記事を見ることも重要ですが、
実際に使って見たレビューを見る事が1番わかりやすいと思います。
今までもスペックシートから分からない事も多くありましたが、2020年からCPUも仲間入りしました。
レビューサイトでも、CPUの性能が出し切れているかという観点のテストも行うようになってきています。
今までより使って見ないと分からない事が増えているので、やはり比較レビューは重要だと感じます。
ノートPCは
など様々な検討ポイントがあり、選ぶのは難しいのですが、CPUから見てとなれば、かなり絞られます。
今回は2つの機種をピックアップしました。
【VAIOシリーズ】
パフォーマンスに関しては化け物です。
他メーカーではPL2は数秒~十数秒ですが、15分くらい維持できるそうです。
15分もあれば短い動画の書き出しくらいならできそうな時間です。
モバイル向けの中でも処理性能重視型のCPUと同等以上の出力が出せると思われます。
【DELL XPS】
DELLのフラッグシップモデルであるXPSシリーズもおすすめです。
こちらもデュアルファンで排熱もバッチリです。
独自の電源管理ツールもあり、高パフォーマンスを出す事ができます。
【まとめ①】
2020年以降、同じCPUでもメーカーによって性能が異なる事が多くなる
【まとめ②】
熱設計ができていないと、上位CPUでは排熱が追いつかず下位CPUに性能面で劣る事もある
【まとめ③】
バッテリー駆動時間とパフォーマンスはトレードオフ。
用途に合ったノートPC選びが重要
最新のインテル製CPU搭載ノートパソコン、特に薄型軽量ノートパソコンには「intel evo」と書かれたシールが貼ってあるのを見たことはないでしょうか。
このシールはこのインテルが提唱する「Intel Evoプラットフォーム」に対応していることを意味し、ユーザーに対して“このシールが貼ってある薄型軽量ノートパソコンなら、良質な機能や使い心地が保証される”ということを伝えています。
つまり、このシールが貼ってあるモデルを選べば、パソコンのスペックに詳しくない人でも確実に快適なノートパソコンをゲットできるわけです。
【 intel evo の仕様の一例】
・インテル® Iris® Xe グラフィックスと第11世代 インテル® Core™プロセッサー搭載
・システムはスリープ状態から1秒未満で起動
・バッテリー駆動時も高性能
・フルHDディスプレイで9時間以上のバッテリー駆動
・フルHDディスプレイで30分以内で4時間駆動分の急速充電可能
・Wi-Fi 6 および Thunderbolt 4 搭載
など
ユーザーの選ぶ基準にはなると思いますが、私は弊害もあると感じています。
「intel evo」は高性能の証といううたい文句があり、各メーカーもフラッグシップモデルはほぼ取得しています。
しかし、「intel evo」には様々な制限があり、厚さ制限もその1つです。本体の厚さが15mmに制限されており、16mmだと認証を得られません。
この制限により、メモリは増設できなくなり、キーボードのストロークも浅くなり、さらに新しいCPUの放熱が不十分等の問題も起きていると考えています。
パナソニックのLet's noteのように、ブランドに自信があるメーカーは、あえて「intel evo」を取得していない機種もあります。
他のメーカーもあえて取得しない機種を作り、バリエーションを増やしてほしいと個人的に思います。